多摩丘陵がうす紫色に湧き立つ早春から木々の葉がキラキラ輝く真夏が、犬塚の大好きな季節でした。一日の仕事とトレーニングメニューを終え、陽の落ちはじめた丘陵の片隅にそっと腰をおろすとき、犬塚の素顔が垣間見られたような気がします。大地の感触、草叢の匂い、大気の温度や湿度を全身で味わい、自然の豊かさにどっぷりと浸る暮らしが人間にとってどんなに価値あるものか、深く感じているようでした。

 玉手箱から宝物を取り出すように描き続けた作品は、犬塚の魂そのもののように感じます。15 歳で画家を志し、懸命に模索を続けた日々の息遣いがスケッチやキャンバスから伝わってまいります。「芸術」と題したノートの最終2冊には、自らの作品展示のあり方を書き記しています。 未来にたくさんの夢と計画を持ちながら、自分自身の内なる限界を試さなければ到達できないであろう「感動ある絵」の実現のため、厳粛な決断をもって山 へ向かったことが窺えます。

 道半ばの作品ではありますが、どれだけ皆様に感動をお伝えできるのかを試させていただく場として、お申し出を頂いた皆様のご厚意を受け、展覧会の開催をお願いしてまいりました。 制作時代から今日に至るまでの三十数年、陰で支えて続けてくださいました 皆々様には感謝などという言葉では到底言い尽くせない思いでおります。

 昨年の3月11日、私たちは、抗うことのできない自然の猛威と制御不能な文明の破壊力の前に、まったく無力な存在であることを知りました。「自然」の前に平伏すように生活を律し、「自然と一体化した農的な暮らしの中から生まれる作品を」と願った犬塚に見えていたものは何であったのか、新たな課題を持ち絵に向き合いたいと考えるようになりました。 皆様のお気持ちにお応えできるよう、そして犬塚の望んだ方向を違えること のなく、息子たちとともに今後の展示を考えてまいりたいと思います。 

 「美は心の内にある」と語り、「良い絵は誰が観ても良いものだ」との信念から、どなたにも感想を求めておりました。こちらのホームページで最新の展覧会情報をお知らせしてまいりますので、ご高覧いただければ幸いに思います。そして、おひとりおひとりの心の内に美を発見してくださったなら、それは犬塚の最高の喜びに違いありません。

 

2012 年 5 月 28日  犬塚 陽子

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多摩丘陵(春) 1980年

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